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Topics 03
2012.02.23
PATEK PHILIPPE Ref.3970の分類に関する仮説
今回は、Vintageとモダンの狭間に位置し、大変人気のあるグランドコンプリケーションであるRef.3970について掘り下げてみます。
Ref.3970はケース径が36mmで非常にバランスの良いディメンションを持ち、そのムーブメントはレマニアエボーシュを徹底的にリファインしたマニュアルワインディングのCal.CH27-70Qを採用しています。
振動数が18,000/hであることも多くのVintageに通じる所見だと考えられています。
Ref.3970は前モデルの最終型であるRef.2499/100に変わって1986年にローンチされ2004年頃まで製造されました。
PATEK PHILIPPE社の150周年に合わせて発表されたとも言われています。
実際の150周年は1989年でしたので、1985年に製造が終わったRef.2499に変わるフラッグシップを1989年までにカタログに載せるという意味合いがあったのかもしれません。
その中でも1nd及び2ndシリーズのダイアルデザインは美しく重厚なリーフハンドとトップにわずかなRが付けられたクラシックなバトンインデックスを備えるためか2499の面影を引き継いだクラシックなデザインとなっています。
現在、Ref.3970の分類を行うときに定説になっていることがいくつかあります。
まずケースの分類を”シリーズ"として例えば1st seriesなどと表現します。
次にダイアルの分類を"世代"として1st generation などと記述されます。
各世代のダイアルディティールについては著名なオークションハウスや他の専門サイトのリポートに詳しいので割愛しますが、ケースの分類とダイアルデザインの分類の組み合わせは意外と理解しにくいものです。
このTopicsでは主にケース構造とムーブメント№を主眼にモデルの変遷を辿ってみたいと思います。
また、その際独自の区分を仮説として整理することでコレクターの皆さんの参考になれば幸いです。
後述しますが、Ref.3970は1986年から2004年頃までの約19年間製造された中で一度ムーブメントのナンバリングシーケンスが変更されています。
またケースナンバーとムーブメントナンバーの組み合わせは多くのモデルと同様に時系列になっていない場合もあり、明確に製造年を判断することはできないようです。
"1st series"
まず比較的はっきりしていることは、1stシリーズといわれる1986年から製造された最初の100個程度はスナップオンバックケースを採用していたということです。
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1stシリーズのダイアルはサブダイアル内がわずかにトーンの違う色で仕上げられていることが特徴です。
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左:1stシリーズ 3970 右:2ndシリーズ 3970E
手元にある資料を参照するとある個体のムーブメントはNo.875,01Xとなっています。
Ref.3970に割り当てられたムーブメントはNo.875,000から始まっていると考えられていることからNo.875,100程度までのムーブメントがスナップオンバックのケースに組み合わされたと思われます。
非常にレアなモデルとして知られる、スナップオンバックかつシースルーバックのRef.3971もこの1stシリーズとして少数存在しています。
ある3971(スナップオンバック)のムーブメントはNo.875,02Xとなっていていますが、念のために保証書の記号を確認すると"PRNO"となっていて、製造は1987年6月であることが分かります。
おそらくスナップバックのモデルが100個作られたとすると、そのうち3971は1割程度だと推測できます。つまりスナップバックかつシースルーバックの3971は10個余りが製造されたのではないでしょうか。
3970自体の製造が2年目に入っていて20数個しか製造していないとは考えにくいため製造個数はもう少し多いと思いますが、製造開始の立ち上がりに出荷数が伸びなかったということは想像に難くありません。
また手元にある資料として、当時3970に付属していたと思われる"3970と3971共用"のBrochureには1987年にスイスで印刷されたことが記載されています。
このことから1stシリーズの早い段階から3970と3971は併売されていた可能性があります。
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"2nd series"
一説には1987年から2ndシリーズが製造されたという記述も存在しますが、前述の経緯から私は1988年頃から2ndシリーズがリリースされたのではないかと考えています。
少なくとも1987年の後半からだったといえるでしょう。
2ndシリーズのダイアルはサブダイアル内はダイアル全体と同一トーンとなっているほかは1stシリーズと相違ないとされています。
カレンダーのフォントが変更されている点が知られていますが、この変更は1stと2ndシリーズにまたがって行われたようです。
ケース構造はスクリューバックとなりリファレンスの後ろに"E"が与えられます。
この"E"はフランス語で防水を意味する"etanche"の頭文字を取ったと理解されています。
多くのリポートでは3rdシリーズからリファレンスが"Ref.3970E"となったという記述が見られますが、スクリューバックのものはすべて"E"だといえるのではないでしょうか。
であれば2ndシリーズの中には3970のソリッドバック、3971、3970のシースルーバック及びソリッドバック同梱の3モデルが含まれるということになります。
紛らわしいことに、個体によってはオリジナルギャランティに3970や3971としか記載されていないものが見られます。
しかし、ソリッドケースバックの刻印は3970Eとなっていて、メーカーはスクリューバック=3970Eあるいは3971Eと認識していたと思われます。
同時に殆どの個体はアーカイブス上も3970E又は3971Eとなっています。
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左:ケースバックの刻印 右:アーカイブスの記載例
時系列的には、次にスクリューバックケースかつシースルーバックであるRef.3971が登場します。
手元にある資料を見るとムーブメントNo.875,48Xの3971Eが1994年に販売されたとあります。
しかし別の3971EがムーブメントNo.875,58Xで1990に出荷されていることを考えれば、前述の個体は長期在庫などの理由で、製造自体は1989年または1990年だった可能性が高いでしょう。
というのも、1991年製造の個体にシースルーバックとソリッドバックの両方が付属する3970Eが存在しているためです。
更に別の3971ではムーブメントNo.875,55Xの個体が1990年に製造されていますから、ソリッドバックの製造期間は概ね1987年後半から1990年までで、その中に3971Eが含まれるということになります。弊社では、市場に出てきた頻度から、製造個数は50個に満たなかったのではなかったかと推測しています。

この仮説を元にすると、シースルーバックとソリッドバックの両方が同梱された3970Eが製造されたのは1991年頃から1993年ないし1994年までということになります。
つまりPATKE社は、当初3970Eと3971Eを併売していたが、その後は裏蓋を2種類同梱した3970Eに一本化した方が商品管理上メリットがあると考えたのではないでしょうか。
"3rd series"
この項には独自の解釈が含まれますのであくまで一つの意見としてご覧ください。
恐らくこのタイミングでダイアルデザイン(針とインデックスを含む)が第3世代に変更になっています。
前述の内容から引き続き推測すると1994年から2004年までに製造されたものが3rdシリーズだと分類できますが、1994年にユニークなケース形状を持つRef.5020が派生モデルとして登場し、そのタイミングで、ムーブメント№のシーケンスが変更されています。
具体的には、No.3,045,000から始まってNo.3,047,500近辺までが3970の他5020、3990、3970/2などに割り当てられたと考えられています。
厳密に生産時期を切り分けていない可能性もあり、No.3,04X,XXXで始まるムーブメントを搭載しながらダイアル(バトンインデックス及びリーフハンド)は第2世代となっている個体が存在する可能性もありますが、それらは2ndシリーズと評価して差し支えないのではないでしょうか。現在の所1994年6月に出荷された3970E(Mov.No.876,80X)のダイアルが第3世代となっていることを確認しています。
3rdシリーズのダイアルは、インデックスに峰が付けられ、さらに文字盤の中心側の端がトライアングル状にカットされており、煌びやかな印象となっています。
針もバトンタイプで先端がトライアングル状となっており、全体にモダナイズされた印象を持ちます。
またバックルは1997年頃から機能的なDeployant Buckleとなり、それ以前はアメリカンバックルがオリジナルだとされています。
個人的には1st及び2ndシリーズにはクラシックタイプのタングバックルを合わせたいと考えています。
リーフハンドとバトンインデックスの組み合わせは2499の面影を彷彿とさせることからクラシックタイプバックルとの相性が良いのではないでしょうか。
"総括"
現在のところ3970を分類している文献では、ソリッドバックのみの3970Eを2ndシリーズと分類していたり、3971Eまでを2ndシリーズと分類する資料が多く見られ、それらが定説となっています。
しかし、このTopicsでは前述のようにスクリューバック="E"であるならば、ダイアルデザインとムーブメント番号規則が切り替わった時点(どちらかというとダイアルデザインの変更を重要な点だと認識しています)を2ndシリーズと3rdシリーズの区切りとする仮説を組み立てています。
私の経験では、ディーラーなどの市場関係者に「リーフハンドの3970を探している」というと「1stか2ndか?」と聞いてくることが多いので、殆どの関係者は主にケースの構造でバリエーションを認識しているのではないでしょうか。
加えて1995年以降の3970はバックルタイプが変更になった点とクロノグラフ針の形状が一部変更された他は最終モデルまで大きな変更は行われていません。
このようにわずか20数年前に製造されたモデルであるにもかかわらず詳細がすべて明らかになっていないこともPATEK PHILIPPEの魅力の一つかもしれません。
仮説の元になっているサンプルはそれほど数が多くないため、前述の区切りには多少の誤差は生じる可能性もありますが、更に研究が進み新たな分類が可能になれば、加筆修正をしてみたいと考えています。
2012.02.29 改訂
2012.09.25 追記・改訂